psiloveyou

「P.S.アイラブユー」の序幕。物語の始まりは犬も喰わない夫婦げんか。
これが非常に小気味よくて、且つ共感できて、生々しくて、ファンタジーで、ちょっと泣けてきたので、文字起こししてみます。つーか字幕書き起こすだけだけど。

マンションについた妻は足早に部屋に戻ろうとする。密室で二人きりになるのを嫌うように、エレベーターに乗らず階段を上る。その後ろを夫がこれまた足早に追いかけるシーン。

夫「これは確認だけど、僕に怒ってる?ベイビー?オーケー僕に怒ってるんだね。何をした?君の勘違いかも」

妻(睨みつける)

夫「違う。そうじゃない。僕が何かしたんだ。とてもひどいことをね。多分。謝るよ。ヘイ!無視するなよ!ベイビー」

妻(立ち止まってよりキツく睨みつける)

夫「僕が何をした?」

妻(睨みつけたまま)

夫「それは部屋に帰ってから?・・・また浴室に締め出すかい?」

妻(呆れたように目線を逸し部屋に入る)

夫「・・・・くそっ」

夫「僕が何を言った?」

妻「わかってるくせに」

夫「さあ?でも多分本気じゃないよ」

妻「本気に決まってるわ」

夫「でも意味は無いよ」

妻「ないわけない」

夫「ほとんどは言葉のアヤだ」

妻「またそうやって逃げようとする。暴言を吐いたくせに」

夫「一体どんな?」

妻「"妻が子供を望んでない"と。ママの前で同性愛者呼ばわり!」

夫「彼氏歴は俺だけ・・・」

妻「ティミーとは4ヶ月付き合ったわよ!!!」

夫「彼もゲイ?」

妻(履いていたブーツを思いっきり投げつける)

妻「ママに"妻は子供が嫌い"と!!」

夫「そんなことはいってないよ!!」

妻「言ったわ!"子供は嫌い"と!」

夫「"まだ産みたくない"と言ったんだ」

妻「"今は欲しくない"と?」

夫「そうさ」

妻「ほら!」

妻(呆れて天井を仰ぐ)

夫「待てよ、誰か仲裁を」

妻「わたしのせいにしないで」

妻「子供のことは2人で決めたのよ。"家を買うまで待とう""お互い給料の25%を貯金。6.25%の利子で5年間"って。それを話してよ」

夫「HAHA!"お互いの給料"?君が定食についたのは最近だ。この2年で5回も転職した」

妻「上司がバカだから」

夫「全員じゃない」

妻「全員よ。上司は全員バカ」

妻「それに!」

妻「私に黙ってジョンと事業ローンを組んだ」

夫「HAHA!ついに言ったな?怒ってる理由を」

妻「起業したのは問題じゃないわ。でもなぜ待てなかったの?」

夫「4年間もリムジンの運転手をやった!」

夫「リムジン会社を興して車を買って顧客を増やす。将来性は抜群。何が悪い?」

妻「もし失敗して家が買えなかったら?私の将来はどうなるの?」

妻「一生不動産屋で家を売れと?自分には買えない家を?わたしにもやりたいことがある」

夫「たとえば?」

妻「さあね。不動産屋以外よ。」

夫「じゃ辞めろ」

夫「毎晩仕事のせいで当たり散らして」

夫「さあ!子作りしよう」

妻「ほら、なにもわかってない!」

妻「"子作りしよう"?オムツ交換は古くて狭いアパートの窓際で?あなたはいつも無計画。なんとかなると思ってる。」

妻「なぜ私だけが堅実な大人なの!」

妻「歌好きでお気楽なアイルランド男がうらやましい」

夫「君が歌うと犬が気絶する」

妻(夫にクッションを投げつける)

夫(頭を低くして避ける)

夫「なあ、金がなくても子供は作れる。心配ならブランド物なんか買うな」

妻「全部ネットオークションで競り落としてるのよ!」

夫「君は−」

夫「本当に子供が欲しい?」

妻「あなたは?」

夫「欲しいよ」

妻「ほらね?」

妻「また本心を隠してる」

夫「これだよ。頭のなかで勝手に別の会話を作る」

妻「あなたは不満なの。私が子作りしないし、楽しい女じゃなくなったし、前みたいな−」

妻「−激しいセックスもしないし」

妻「文句ばかり。それが本心でしょ?隠さないで正直に言えば?」

夫(乱暴にクッションを放り投げながら)

夫「そうだ」

夫「激しいセックスがしたい」

妻(夫の顔めがけてブーツを投げつける)

夫(今度は避けない)

夫「普通のでいい」

妻「今の生活が不満なんでしょ?」

夫「そんなことない。誤解するなよ」

妻「もし一生今のままで終わったら?」

夫「どういう意味だ?」

妻「上昇ゼロよ。リムジン会社を経営する子供のいない夫婦」

夫「じゃどうする?」

妻「分からない」

夫(妻の肩を掴み強い口調で)

夫「君の望みはなんだ?」

夫「いい加減はっきりしろ」

夫「もし"家"ならもっと働いて買う」

夫「"子供"はどうだ?欲しいのか?」

夫「僕の望みは一つだ。今掴んでる君だ」

夫「君の望みは?」

夫「僕か?」

夫「もし違うなら言ってくれ」

妻「言ったらなに?家を出てく?」

夫「それが望み?」

妻「私の望みにすり替えないで」

夫「本音を言え」

妻「じゃ出てってよ!!ガタガタ言わずに!」

夫「ああ!くそったれ!!」

妻「訛りをやめて!」

夫婦共に、個室に閉じこもる。

−数分後

夫「スッキリしたか?戻っていいかい?」

妻「・・・ごめんなさい」

その後むちゃくちゃセックスした。


以上であります。ここまで開幕から十数分。
夫は、後日、脳腫瘍が原因でこの世を去るのだけど、その夫から届く手紙を元に、妻は心の旅に出るという話し。


なんというかですね、物語全体を通して見ても、非常に爽やかで希望に満ちた素晴らしい映画なのですが、僕は冒頭の夫婦げんかにやられた。

深刻で、コミカルで、くだらなくて、でも深刻で。これぞ夫婦生活に悩む我々そのものじゃないか。失ってから気づく絆ではなくて、失う前から気づいてはいても、敢えて目を背けて裸の殴り合いを続けるその他大勢の夫婦そのもの。

激しい言葉でぶつかり合いながらも、落とし所を見つけては見失い、労りつつも傷つけ合い、滑稽で愛らしい夫婦の姿に、深く共感して、泣けた。

まあ実際セックスすりゃ解決するわけもないけどね!

いい映画でした。